税金ひとことアドバイス (平成28年9月掲載): 相続放棄について
民法上、相続放棄というものが認められています。
普通、相続が発生して相続放棄をするというのは、被相続人の財産よりも借金が多い場合なのでしょうか。
ある50代の女性から相談を受けました。
「500万円の借金があるけど、1,000万円の死亡保険金がある相続は放棄しない方がいいですか?」というものでした。
内容は二人兄妹で独身の兄が死亡したというものでした。兄の財産は100万円弱の銀行預金があるものの、小さな事業を行っていたので500万円近い借金を抱えていることが分かったのですが、借金がそれで全部かどうかははっきりしないとのことでした。
「相続放棄をすることも考えていますが、兄が自分を被保険者として生命保険に加入しており、私(相談者)が生命保険金の受取人になっていました。死亡保険金は1,000万円となっていますので他に借金がないのであれば、相続放棄をしない方が得とも思いますが、どうしたものでしょうか」という相談でした。
私は、相談者の兄は財産より借金の方が多いことは確実なのかよく確かめて、確実であれば即座に相続放棄を行うように勧めました。
相続放棄は3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄申述書を提出して許可を受けなければなりません。
相談者は相続放棄をすれば生命保険金を受け取る権利も放棄することになると心配していますが、相続税法上において、生命保険金は「みなし相続財産」として一定金額以上(相続人1人当たり500万円を控除した金額)は相続税の課税対象財産になりますが、そもそも生命保険金は相続財産ではないのです。
たとえ、兄の相続を放棄しても生命保険金はその保険の受取人に支払われるものなのです。
生命保険金の受取人の決定は慎重に
相談者の場合は、相続人が相談者一人で生命保険金の受取人も相談者なので、特に問題はないのですが、仮に相談者の他に兄弟(姉妹)がいたとしても、兄の生命保険の受取人が相談者になっていれば、その生命保険金は他の兄弟(姉妹)と兄の相続財産として分割する必要もなく、相談者のものであります。
逆に、兄の生命保険金の受取人が相談者の他の兄弟(姉妹)となっていたのなら、相談者が他の兄弟(姉妹)に兄の相続財産だから生命保険金を分割しようという権利はないことになります。
なお、敢えて自分が受取人になっている生命保険金を兄弟(姉妹)に渡した場合には、110万円を超す場合は、受取人から兄弟(姉妹)にお金を渡すわけですから、相続税の対象ではなく贈与税の対象になります。
また、兄弟が複数いる場合において、兄の生命保険金の受取人の指定が相続人となっていたならば、兄弟で話し合って受け取るということになります。
この場合の受け取った生命保険金は相続税の対象です。
そのようなわけで、相続放棄と生命保険金を受け取る権利は関係ないので、生命保険金を受け取る権利があって、亡くなった方の財産が債務(借金)より少ない場合には相続放棄の方が有利だといえます。