税金ひとことアドバイス (平成28年その②):相続税の間違いについて
相続税について、けっこう間違いのある話が横行していることがあります。
相続税の税務調査は、一般に相続人に案内してもらって、家の中を全て見せてもらうことを原則としているようです。
なぜか、お金持ちがどのような家に住んでいるのかという興味本位でなく、申告されていない財産がないかどうかを確認するためです。
これがけっこう見るべきところがあるのだそうです。
あるケースの調査ですが、当時還暦を少し超えた会社社長が被相続人で、相続人は配偶者である奥さんと、結婚して嫁いでいる娘さんの2人という事案です。
故人の遺影がない?
税務調査に立ち会ったのは、奥さんと相続税申告書を作成した税理士の私と担当職員でした。被相続人の経歴や趣味などの一連の聴き取り調査も終わり家の中を見せている時のことでした。
家の中を順次案内してもらい、仏間に入ると何かちょっと違うなぁという違和感があった様に思いました。
その何が違うのかがわからないまま、仏壇に手を合わせて立ち上がった時に、ふと奥さんの顔に違和感!の理由がわかりました。
故人の遺影がどこにもないのです。
どこの家でも、仏間には先祖の方々の写真が順番に飾ってあり、一番最後に今度亡くなった方の写真があるのでしょうが、古い写真ばかりで目の前にいらっしゃる奥さんの旦那様の写真が一枚もないのです。
「奥さん、ご主人の遺影がありませんね」というと、それまで自然に対応していた奥さんが急にそわそわしだしました。
人間は気づかないうちに、痛いところを衝かれたり、さわられると行動に異変が発生するものです。
急にそわそわしたり話を逸らしたり、時には怒り出したりする方は多くいるものです。
そういう異変には、ベテランの税務調査官は見逃さないものです。
調査する例とすれば、しめた!ということになるのでしょうが、このケースの様に写真がないだけの、どうということは思えても、逆になぜそんなに慌てられるのかと、いつもと違う展開にピンとくるものがあったのでしょう。
そうこうするうちに、奥さんはそわそわしながら部屋の隅に置かれている本棚の後ろの隙間に手を入れて、「これです」といって写真を出してきました。
調査官も私も「なんで?」という顔をして、お互いを見て、また写真を抱えている奥さんを振り返りました。
「そんな所に写真を置いていたらご主人が可哀想じゃないですか」というと、奥さんは「まぁ聞いて下さい。知らなかったのは私だけだったのです。会社の役員達は皆知っていたのよ。ひどいでしょ」と言われました。
調査官と私は「はぁ?」です。
それからよくよく話を聞いてみると、亡くなったご主人には「女」がいたとのことでした。
しかも、その女を受取人として、生命保険に加入していた事が判明しました。
法定相続人ではない方に生命保険金が…
被相続人が契約者および被保険者であれば、生命保険会社から支払われる生命保険金は相続税のみなし相続財産になります。
受取人が相続人以外であっても遺贈として相続税の対象となるのです。
調査官は、その女性の住所・氏名と被相続人が加入していた生命保険金を聞き取りましたが、奥さんはその時「その女は主人の死亡で5千万円もの生命保険金を受け取っているのですよ。そんな金額を受け取っていいのですか。税金で全部取り上げてください!」と、すごい剣幕で調査官に迫りました。
写真は飾っていると腹が立つから下ろして本棚の後ろに入れているとのことでした。
後で生命保険会社で調べたところ、被相続人の特殊関係人が生命保険金を受け取っていました。
結局、修正申告で被相続人の特殊関係人からも、相続税が追徴されました。
また新たに出てきた生命保険金が財産に加わりますので、必然的に相続税も増加し、奥さんや娘さんの相続税も増えるという結果になりました。
この案件はこれで一件落着はしましたが、ふつうにあるものがない事にピンときたことで調査官も税理士の私も直感が間違っていなかった事例でした。
気を付けましょう。