今の世界経済の実体とは

今の世界経済の実体とは

 

世の中に出回る現金・預金(世界の通貨供給量)は、はたしてどうなっているのであろうか。

 

世界の中央銀行は、あふれるようなお金を流してきた。なのに、企業や家計は貯蓄に励むばかりで、経済成長は弱々しい。謎めいた停滞の解が出ぬまま、欧米の金融緩和は終わりに向かい、世界は少し身構える様に思える。

 

世界の通貨供給量は、実体経済の規模を上回るペースで膨らんでいる。世界銀行の統計をもとに算出した2016年の通貨供給量は、87、9兆ドル(約1京円)だ。

 

(1京円とは、1万円分の1万倍が1億円、1億円の1万倍が1兆円、1兆円の1万倍が1京円)
世界の総生産(GDP)総額よりも16%多い。

 

2000年代半ばまでの半世紀、マネーの増加は実体経済の成長とほぼ軌を一にしてきた。それが2009年以降は、マネーがGDPを大きく上回るようになった。乖離は年々鮮明になっている。

 

起点は、2008年9月15日のリーマン危機後に主要中央銀行が推し進めた、金融緩和である。
経済がしぼむ中で、お金を流す蛇口を思い切り広げた結果、世界の通貨供給量は2006年からの10年間で、76%も膨らんだ結果となる。日米とユーロ圏の中央銀行が供給した資金量は、10年前の4倍に達している。

 

低金利に干上がったマネーの一部は、金融商品や不動産市場に流れ込んだ。2009年春に30兆ドルを割り込んでいた世界の株式時価総額は、過去最大の83兆ドルに増加。資産価格を押し上げ、自己増殖の色彩を強めてきたのである。

 

本来マネーの量はGDPとほぼ同じだったが、ダブつくマネーの供給量がそれと比して増加しているのが、今の世界経済である。

 

さて、だからこそFRBは緩和の出口を急ぎ過ぎない配慮を示すことが求められる。

 

また、大きな波紋を引き起こしかねないのが、中国の引き締めである。中国人民銀行は、人民元の供給量(マネーサプライ)を2008年の47兆元(802兆円)から2016年には155兆元(2645兆円)に膨らませた。中立を意味する「穏健」の看板とは裏腹に、緩和の足並みを米国とそろえてきたが、今後は引き締めで米国を追いかける。

 

中国当局の意向が背後にあるのであろうが、今日的な背景を考えると、2008年のリーマンショックへの対処でFRBが増やした大量のドルが世界のあちこちに行き着いた今、どう読み、対処していくかに注目が集まるところである。

 

いずれにしても、「100年に1度」と評されたリーマン危機の衝撃は大胆な金融緩和でしのいだが、世界の中央銀行は緩和をなかなかやめられない背景がある。

 

世の中に行き渡るお金を増やしても経済の体温が高まらず、物価が上がらない現実の前に出口戦力が求められる今、どうかじ取りをしていくか関心が集まるところである。

 

米株市場は今、投資アドバイザーを対象に行った調査結果では、強気派の割合が1987年の「ブラックマンデー」の数ヵ月前以来の高水準となっている様である。

 

思い出されるのは米国の著名な投資家だった、故 ジョン・テンプルトン氏の投資において最も危険な4つの単語である。(This time is different = 今回だけは違う)だ。

 

過剰な楽観への注意、いましめである。